
西井浩二 Koji Nishii
CEO/Project Manager/Designer
インタビューの第一弾です。
―― オフィス移転や改装の相談は、どんな内容が多いですか?
西井:一番多いのは「何から始めたらいいのか分からない」というご相談です。オフィス移転は、多くの企業にとって数年に一度あるかないかの大きな出来事。しかも担当する方にとっては初めてのケースであることも少なくありません。そのため「レイアウトはどう決めればいい?」「誰にまず声をかければいい?」と迷うのは当然なんです。
最近はリモートワークやフリーアドレスの導入など、従来の働き方とは前提条件が大きく異なるケースが増えています。以前の「とにかく人数分のデスクを並べればよい」という発想では成り立ちません。だからこそ、従来の経験が通用せず、最初の一歩に戸惑う企業が増えているのです。
―― では、その最初の一歩はどう踏み出すのでしょうか?
西井:まずは徹底的にヒアリングをします。単に「社員数は何人ですか?」といった情報を聞くだけでは不十分です。どの部署がどう連携しているのか、よく使う会議室のタイプは何か、昼休みに人が自然と集まる場所はあるのか。そういう“行動の癖”や“社内の文化”に踏み込んで理解することが重要なんです。
たとえば、あるIT企業は「会議室が足りない」と考えていました。しかし実際に社員の行動を観察してみると、大きな会議室は空いていて、逆に「4人以下の小部屋」や「ちょっとした立ち話ができる空間」が圧倒的に不足していました。課題の本質を整理した結果、会議室を増やすのではなく、フロア内に複数の小さな打ち合わせブースを設置することで一気に問題が解決したんです。
こういうとき、僕は「絡まった紐を一緒にほどく人」だと思っています。課題を言語化し、優先順位を整理していくうちに、クライアント自身も「あ、実は本当に困っていたのはここだったんだ」と気づかれることが多いんです。その瞬間が一番嬉しいですね。
―― 設計で特にこだわっていることは何でしょう?
西井:一言で言えば「人の感覚に寄り添うこと」です。見た目がかっこよくても、社員が使わなければ意味がありません。逆に、派手さはなくても「なんとなく居心地がいい」「自然と人が集まる」空間は、会社にとって大きな財産になります。
動線や視線の抜け方、音の広がり方、座った時の安心感…。例えば集中スペースの横に「ワンクッション置ける場所」があるかどうかで、社員の滞在時間や疲労感は大きく変わります。また、ガラスや木材、ファブリックといった素材の使い方ひとつでも心理的な影響は違うんです。
以前あるベンチャー企業で、執務スペースの隣に半屋外のような開放的なリフレッシュルームを設けたことがあります。そこは昼休みだけでなく、夕方に自然と人が集まり、部署を超えた会話が生まれる場になりました。結果的に新規事業のアイデアもそこから生まれ、オフィスが「創造の種を生む場所」として機能し始めたんです。

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―― お仕事のスタイルや信念について教えてください。
西井:僕の座右の銘は「巧遅は拙速に如かず」です。もちろん丁寧な設計や検討は欠かせませんが、完璧を追い求めすぎて動けなくなるのは意味がありません。まずは叩き台を出して、「これどうですか?」と一緒に考える。そのスピード感と柔軟さが、結果的にプロジェクト全体の質を高めます。
あるプロジェクトで、最初に提案したプランは「8割の完成度」でした。でもクライアントが「この部分はもっとこうしたい」と率直にフィードバックをくださり、それを反映させて最終的にはお互い納得のいく空間になりました。最初から完璧を目指すのではなく、動かしながら完成度を高める方が、クライアントとの信頼関係も深まるんです。

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―― 今後挑戦したい領域はありますか?
西井:これからのオフィスは「働く場所」にとどまらず、「文化を育てる場所」や「人と人との関係性を強める場」になっていくと思います。特にリモートワークが一般化した今、社員がわざわざ集まる理由が必要です。ただ机を並べるだけでは意味がなく、「その企業らしい体験」ができる空間が求められています。
最近では「空間の外側」にも関心があります。例えば、社員同士のコミュニケーションをどう促すか、エンゲージメントをどう高めるか。オフィスは単なる箱ではなく、会社と社員をつなぐ“メディア”のような存在になれると思っています。IoTやセンサー技術を活用して、人の動きに応じて照明や音環境を変えるといった「インタラクティブな空間」にも挑戦したいです。
―― オフィス移転を検討している企業へのメッセージをお願いします。
西井:「移転って何から考えればいいのか分からない」「なんとなく今のオフィスが使いづらい」――そんな曖昧な状態からでも大丈夫です。むしろ、その漠然とした違和感を言語化するところからお手伝いするのが私たちの役割です。
オフィスは単なる“場所”ではなく、社員が集まり、文化を育み、会社の未来を形作る装置です。その空間をどう設計するかで、社員のモチベーションや会社の成長スピードは確実に変わります。正解は一つではありません。だからこそ、私たちテントテンは「対話しながら一緒に正解を見つけていく」スタイルを大切にしています。
Vol.2に続く。
